28. 深呼吸 | 『野人魂』 TVチャンピオン野人王 大西琢也が綴るメッセージ

28. 深呼吸


驚くことはない。そう思いつつも驚くことばかりである。

先日、都会のある大書店で泣き叫びながら階段をものすごい勢いで駆け
下りていく男の子に出会った。チラッと踊り場を通り過ぎていくその子
はもう何が何だか解らない。この世の終わりのような状態。そのまま、
あっという間に視界から消えた。

僕もワケが解らなかった。しかし、何かが起きている。見逃すわけには
いかなかった。階段の方へ歩み寄ると、さっきの子が今度は階下から脱
兎のごとく昇ってきた。

「お、どうした?大丈夫かい?」
「ん・ひっ・・ふぉ・・」泣きじゃくり、声にならない。。。
「迷子になったのか。大丈夫だよ。大丈夫。」「おいでよ」

その子の肩に手を置いてたたずむ。数十秒たったか。しばらくすると落
ち着いてきたようだ。呼吸が静かに収まってきた。もう一度ゆっくり事
情を聞いた。どうやら親とはぐれたらしい。

一緒に一つ下の1階レジに行き、女性の店員に事情を話す。
「大丈夫だからね。すぐにお父さん呼んであげるからね。」
その人は優しく抱きしめながらそう言った。お仕事的な感覚ではなく、
心を向けた対応だった。僕も少しホッとした。人の温もりがそこには
あったからだ。

あの子は何分か知らないけれど、パニックの世界に足を踏み入れた。もう
周りのことなんか見えなかっただろう。不安が不安をよび、加速度的に膨
らんでいったのだろう。激しく乱れた呼吸がそれを物語る。

思えば7階で親とはぐれて僕と会ったのは2階。なぜ迷子になったのか。
しかし、それよりも気になったことがある。そばにいた大人はなぜ誰一人
として声をかけなかったのだろうか。少なくとも何人かはすれ違っている
はずだし、見かけた人もたくさんいるはずだ。

なんでもかんでも、子供達に声をかけようとは言わないけれど、見て見ぬ
ふりの大人が多い。電車の中でギャーギャー騒ぎ立てる高校生。食べ物を
ゴミのように捨てていく小学生。お互いに何も想わないのだろうか。

そこには存在感というものが見えない。いるのかいないのか感じることが
できなくなったのは何故だろう。あーいやだ。

関係性の断絶。自分と相手の間にあるかけがえのないものが失われて
しまったのか。言葉を失うような、殺伐とした社会の根っこは日々の何気
ないところにも見えてくる。嫌だと思ってるのにどうして、そこへ近づい
ていってしまうのだろう。

それは自分の体験したことでしか、本当の理解には辿り着けない。人間って
不思議な生き物なのだろう。自分の目で見て、身体で感じること。
回りくどいかもしれないけれど、すっ飛ばしてはならない仕込と熟成の時間
が必要なのです。焦るとろくなものができないもんね。

さて、あえて見たくもない。感じたくもないものが目の前にたくさんある。
そんな中であなたもパニックになっていませんか。だからこそ、一人ひとり
が「つながり」を取り戻す瞬間が今こそ必要です。

一日一回でいいからやってみよう。深呼吸しようよ。
呼吸を整えて本当の自分を取り戻すために。息を吸って吐いて、ずうっと
繰り返していくこの不思議な力。ただ一つ。それだけに時間を使おう。

呼吸のつながりこそ、自然のつながりそのもの。僕らも自然の一部を担って
いることの証ですね。

自然に触れる。自分のルーツに触れる。
そうした原点に還る時間は魂の深呼吸に必要だと思います。
元気になる時間、創りましょうね。

*写真:全て藁で作られたお正月用の飾り。すごいなあ日本。
    年末に行った大阪の民族学博物館(みんぱく)にて。
    プチ世界一周できるよ。おすすめ。
    http://www.minpaku.ac.jp/