『野人魂』 TVチャンピオン野人王 大西琢也が綴るメッセージ -2ページ目

29. 夜明け


夜が明ける。一日たりとも休むことなく続いてきた自然の営み。いった
いこの人生の中で何回この素晴らしい光景を目にすることができるので
しょうか。

 頭の上で輝いていた星が静かに眠りにつき、天と地が少しずつその境
界線を確かなものにしていく。目の前にある木が、遠い山に溶け込んで
一枚の影絵のように浮かび上がってきました。寒いけれど冬の夜明けは、
他のどんな季節よりも凛とした威厳に満ちた瞬間であると思います。

 本物が語りかけてくる時、僕達はその言葉をどうやって聴くのか。そ
れは耳ではなく頭でもなく、自分の中にある目には見えないものに共鳴
させていくのでしょう。それはうまく説明できないけれど、魂が振るえ
る。つまりは勢いを盛んにすることなのでしょうね。

 日常の中にどれだけ共鳴できる瞬間があるだろうか。あなたの周りを
ざっと見回してください。抜け殻のようなもの、死んでいるものがどれ
だけありますか。生きているものはどれだけありますか。

 今からでも遅くはない。ひとつずつで良いから「生命」を感じられる
ものを身近に置きましょう。出逢える場所を創りましょう。出かけよう。

 自分の生命は周りのものと共鳴しているのだから、活き活きとした響
きあいを大切にしたいですね。

 生命の確かさを実感するひととき。大きな自然に包まれている安心感。
そこで共に在る仲間とのつながり。それは僕達が生きていく上で、不可
欠な支えになっているのです。だから子供達にもっと自然体験をさせた
い。大人も子供も何を語り、何を聴くのか。そしてどんな行動をするの
か。日々の暮らしの中で少しずつ生命を育てていきましょう。

ピーンと張りつめた空気に自分の吐く熱い息が吸い込まれていく。大地
から白い光が解き放たれていく。振り向けば3000mを越す白き峰々
が徐々に頬を染めて朝の挨拶をしてくれました。夜が明けました。

よっしゃあ、元気が湧いてきたぞお。

28. 深呼吸


驚くことはない。そう思いつつも驚くことばかりである。

先日、都会のある大書店で泣き叫びながら階段をものすごい勢いで駆け
下りていく男の子に出会った。チラッと踊り場を通り過ぎていくその子
はもう何が何だか解らない。この世の終わりのような状態。そのまま、
あっという間に視界から消えた。

僕もワケが解らなかった。しかし、何かが起きている。見逃すわけには
いかなかった。階段の方へ歩み寄ると、さっきの子が今度は階下から脱
兎のごとく昇ってきた。

「お、どうした?大丈夫かい?」
「ん・ひっ・・ふぉ・・」泣きじゃくり、声にならない。。。
「迷子になったのか。大丈夫だよ。大丈夫。」「おいでよ」

その子の肩に手を置いてたたずむ。数十秒たったか。しばらくすると落
ち着いてきたようだ。呼吸が静かに収まってきた。もう一度ゆっくり事
情を聞いた。どうやら親とはぐれたらしい。

一緒に一つ下の1階レジに行き、女性の店員に事情を話す。
「大丈夫だからね。すぐにお父さん呼んであげるからね。」
その人は優しく抱きしめながらそう言った。お仕事的な感覚ではなく、
心を向けた対応だった。僕も少しホッとした。人の温もりがそこには
あったからだ。

あの子は何分か知らないけれど、パニックの世界に足を踏み入れた。もう
周りのことなんか見えなかっただろう。不安が不安をよび、加速度的に膨
らんでいったのだろう。激しく乱れた呼吸がそれを物語る。

思えば7階で親とはぐれて僕と会ったのは2階。なぜ迷子になったのか。
しかし、それよりも気になったことがある。そばにいた大人はなぜ誰一人
として声をかけなかったのだろうか。少なくとも何人かはすれ違っている
はずだし、見かけた人もたくさんいるはずだ。

なんでもかんでも、子供達に声をかけようとは言わないけれど、見て見ぬ
ふりの大人が多い。電車の中でギャーギャー騒ぎ立てる高校生。食べ物を
ゴミのように捨てていく小学生。お互いに何も想わないのだろうか。

そこには存在感というものが見えない。いるのかいないのか感じることが
できなくなったのは何故だろう。あーいやだ。

関係性の断絶。自分と相手の間にあるかけがえのないものが失われて
しまったのか。言葉を失うような、殺伐とした社会の根っこは日々の何気
ないところにも見えてくる。嫌だと思ってるのにどうして、そこへ近づい
ていってしまうのだろう。

それは自分の体験したことでしか、本当の理解には辿り着けない。人間って
不思議な生き物なのだろう。自分の目で見て、身体で感じること。
回りくどいかもしれないけれど、すっ飛ばしてはならない仕込と熟成の時間
が必要なのです。焦るとろくなものができないもんね。

さて、あえて見たくもない。感じたくもないものが目の前にたくさんある。
そんな中であなたもパニックになっていませんか。だからこそ、一人ひとり
が「つながり」を取り戻す瞬間が今こそ必要です。

一日一回でいいからやってみよう。深呼吸しようよ。
呼吸を整えて本当の自分を取り戻すために。息を吸って吐いて、ずうっと
繰り返していくこの不思議な力。ただ一つ。それだけに時間を使おう。

呼吸のつながりこそ、自然のつながりそのもの。僕らも自然の一部を担って
いることの証ですね。

自然に触れる。自分のルーツに触れる。
そうした原点に還る時間は魂の深呼吸に必要だと思います。
元気になる時間、創りましょうね。

*写真:全て藁で作られたお正月用の飾り。すごいなあ日本。
    年末に行った大阪の民族学博物館(みんぱく)にて。
    プチ世界一周できるよ。おすすめ。
    http://www.minpaku.ac.jp/

27. 人。人。人。  

勢いのある人。周りを気遣える人。アホになれる人。
道具を大切にできる人。気持ちよく叱れる人。響きあえる人。
抜群の間を持つ人。恥ずかしがりの人。研究熱心な人。
気風のいい人。目のきれいな人。笑顔の素敵な人。
真っ直ぐな人。理屈を大切にできる人。力こぶのある人。
素直な人。子供と喜んで遊べる人。野菜を育てる人。
山に登る人。へこたれる人。静かに頷く人。
座る人。書く人。抱き合う人。
眠る人。走る人。喋る人。
夢中になっている人。愛する人。飛ぶ人。
驚く人。怒る人。泣く人。
悩む人。お腹が痛い人。唄う人。
寒がりな人。自分勝手な人。考える人。
泳ぐ人。黙々、淡々と成し遂げる人。陰から支える人。
舞い上がる人。選ぶ人。感覚の鋭い人。

人。人。人。

たくさんの人が生きていますね。今までいろんな人に出逢ってきたなあ。
お蔭で目に見えない種をたくさんもらうことができました。

あなたは最近、どんな人に出逢いましたか?
できれば一緒にいて元気になれる、刺激になる、落ち着くとか、
それぞれの良いパワーをもらいたいですね。
でもね、自分の中にもいるでしょ。いろんな人が。

だから、良いとか悪いとかよりも、そこにお互いがいること。
出逢えたことそのものにも価値があるんじゃないかな。
独りじゃないってことだからね。

よーーく見ようと意識すれば周りにいるでしょ。一緒にいる人が。
同じ空気、同じ時間、目の前にいること。それだけで素晴らしい。

人と人が出逢う時。それは自分の中にあるものに気づけるチャンスです。

これからどんな人に出逢えるか。どんな自分に出逢えるかな。
子供達にどんな出逢いをプレゼントできるかな。
とっても楽しみな年の始まりです。

26. 言葉は生命なり


お正月、久しぶりに母方の田舎である和歌山へ帰省してきました。
お城の近くにある家にはもう誰も住んではいません。しかし僕は
そこで自分の根っことつながる生命の言葉に出逢いました。

風化して茶色くなった手帳に認められていたこの言葉。

「聴くに心眼を開け。語るに身魂を尽くせ。行ふに真勇を振るへ。
言葉は生命なり、道なり、光なり。」


 祖父はどのような経験からこのような言葉を遺したのでしょうか。
ここに込められたものを僕が本当に理解するにはもう少し時が必要
だと想います。亡くなってから20数年。時を越えてもらった
メッセージを声に出し、胸に刻みました。今、言えることはひとつ。

言葉は生命をつなぐ。

僕はそう思います。言葉によって人と人が理解しあえる。
時や場所を隔てても、それを可能にするもの、価値観の土台にある
のは生命の記憶です。僕達は経験したもの以上のことを言葉にする
ことができるのでしょうか。

何歳であるにしろ、そこまで「生かされていること」そのものにかけ
がえのない価値があるとすれば、何が大切でしょうか。できるだけ多
くの人に自然に触れてほしいと願うのは、生命のつながり、根っこを
感じてほしいからです。人と人が、人と自然がつながっていることが
本当に実感できるからです。僕はこれからもどのようにして生命を育
んでいくのか、皆さんと一緒に考え少しずつ実践していきたいと思い
ます。

あなたが誰かと言葉を交わす時、誰かの言葉に出逢う時、そこには生
命と生命をつなぐ見えない橋がかかっています。意味のない出逢いな
どひとつもありません。あなたの目の前にある言葉を、出来事を、そ
してそこにある隠されたメッセージをしっかりと受け止めてください。
きっと今必要なヒントがそこにあるはずです。

「野人魂」も何らかの形であなたの助けになってくれていることを
願って、今年も綴っていきます。ここに在るひとつひとつが大西琢也
の内なる歩みです。湧き上がる想いを行動につなげ、形にしていくこ
とを続けていきます。

僕はこの混沌とした社会の中で、道標となれるようなひとつの価値観
を示していくつもりです。末永く見守りつつ、何かのきっかけにして
いただければ、とても嬉しいです。

実際にお逢いして語り合えることも楽しみにしています。両岸から橋
をかけてお互い歩み寄りましょうね。

 さあ嬉しい、楽しい、幸せ、ついてる、素晴らしい一年にしましょう!
 気持ちいい言葉を声に出しましょう!

 おせちにおもち美味しかったなあ。。。ありがとう。

25. 今だ!



もう止まりません。どんどん湧き出してくるものを言葉にしておこう
と想います。まさに「今だ!」。

出逢いが出逢いを呼び、突き動かされるようにして走り出す。しかし、
歩いているのと同じくらい周りが見えている。そんな時こそ、チャンス
です。今ここというタイミングなのです。そこでは一瞬で物事が決まり、
光速の流れが見えてきます。

ホントは理屈じゃありません。でも火起こしに喩えて話をさせてくだ
さい。まず、火を起こすためには道具との出逢いがあります。これは
山の中へでかけてほとんど自分で探します。ものすごい数の木々から、
良き出逢いを見逃さないためには観察力が必要です。またそれと共に
閃きのようにやってくる「何か在る」という感覚。そこへ導く心の羅
針盤が大切です。

歩いていると、突然、あーこれだ。あなたに逢いたかった。そう感じ
たときの直観はほぼ間違いありません。

火錐杵(棒)としてふさわしい樹種はいくつかあるけれど、突き動か
されるような出逢いは少ないものです。

火を起こすには簡単に言えば、棒をぐるぐると回転させて、木と木を
擦り合わせます。そこで摩擦熱が生まれ、熱が木屑にたまり自然発火
するのです。余計なものを挟んでは火がつきにくくなるので注意です。

初めての方はたいてい力任せに火をつけようと歯を食いしばってがん
ばります。しかし、煙がモクモク上がるだけ。あげくに昔の人をヨイ
ショして終わります。

実はここには重大なタイミングの極意が隠されているのです。火を起
こすなんて機会はあまりないかもしれませんが、一応申し上げておき
ます。だって子供と一緒にいるとき、良いこと、悪いことその時を逃
せません。人間関係も、自分の夢も、これからの未来も同じかもしれ
ない。あとになってからじゃあ手遅れのこともあるし。

敢えて言葉にすれば、始めチョロチョロ。ナカパッパ。ん?それは、
ごはん炊きの呪文じゃないの。いえいえ、これが大事です。始めは少
しずつ暖めていくことが大切なのです。あちこち熱が逃げないように、
火錐杵(棒)の先が臼(板)から離れないようにします。しっかりと密
着させることが大切です。

さらにゆっくりと回転させてもいいから、相性を確かめます。コミュ
ニケーションが深まってくると安定してきます。音も匂いも変わって
きます。そうして十分に摩擦熱が溜まってきたら、そのサインとして
煙がモクモクとたくさんでてくるのです。

その時です!「今だーーー!いけー!」と一気に力を加え、回転を上
げます。躊躇しちゃいけませんよ。この時、このタイミングしかあり
ません。ここが分かれ道。寂しい一人旅か。嬉しい楽しい~になるか。

今ここのタイミングを逃さず、あなたの火を生み出してくださいね。

あ、でもその後に焚き火して何か食べる時が一番「今だ!」って
感じるかも。

*写真は03年アフリカ遠征した際の火起こし。ピラミッド前です。
 観光客に囲まれるわ、警察官にも変な顔されるわ。。。
 楽しかった。

24. めぐりめぐる



音も無く静かにそれは飛びたった。1回、2回、、、もう10回は座布団
が空を飛んだ。実はこれ、大相撲ではありません。ムササビです。彼
らは生真面目なのか、約束の時間を確実に守ります。日没後ほぼ30分
以内に巣穴である大木の洞から顔を出して、あたりの気配を確かめま
す。落ち葉の敷き詰められた山の斜面で僕はジッと身を硬くして息を
殺し、木に化けて待ち構えました。

お、おおっでてきたーーー!声を上げたいけれどグッと我慢。・・・。
沈黙の中で見つめあう。なんとも愛嬌のある丸い顔に丸い目。かわいい
ぞお。でもまだこっちを見ている。。。

気配というのは自分が想うよりもはるかに伝わっていくものですね。
人間の場合、「駄目だね」、「早くしなよー」、等と否定的なものが
あると、笑顔であっても心があっかんべ。表面で繕ってみてもほぼ確
実に相手は感じています。

でもまずいのはその声を一番たくさん聴いているのはあなた自身です。
相手を否定しているつもりが、自分を否定している。
気をつけなくてはねえ。

これをチョット違う視点で見ると、すごい力だと想いませんか。つまり
は言葉を使わないで伝える力、感じとる力をみんな持っているのでしょう。
だったらそれを幸せになれるものに使おうよ。

疲れているときは誰だってあるさ。面白くないこともある。大人も子供
もみんな人間なんだから、毎日過ごしていればいろいろ波があっていい
じゃないですか。

心にある想い、気配もまるごと一緒に感じ取れるようになったらいいなあ。
そうすればもっとみんなが気持ちよく過ごせる。

そのためにはたった一つだけ。
無視をしない。

何でも良いから相手に返す。できるだけ言葉で返してもらうと嬉しい
ですね。メッセージを出した人も受け取った相手も、お互いがあるから
こそ自分がある。自分の存在をそうやって無意識のうちに確かめている
のです。

自分から出したものが廻りめぐって還ってくる。
気持ち良いもの、握り締めていないで手放してしまいましょう。
思いもよらぬところからプレゼントがあるかもしれませんよ。

そうやって人と人がつながっていく。同時にこの地球で生かされている
のを感じられると幸せに一歩近づくかもしれない。

あーそうそう、ムササビ君はしばらくして、まあいいかと諦めたらしい。
そそくさと出てきて夜空に黒い影と気配を残し森へ消えました。
すっかり夜になって昇ってきた満月は山の道を照らし、
僕の心も導いてくれました。

僕は今、とてもいいつながりの中にいます。みんなありがとう。


*ちなみに写真の光る目がムササビ君です。名前付けてね。
そうじゃなくて・・・。
見る角度を変えると顔の輪郭見えますよ